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『奥飛騨温泉郷 中尾地熱発電所』~温泉文化と地熱発電、共に助け合い繁栄する未来のために~

北アルプスの玄関口に位置する「中尾温泉」
目前に広がる北アルプスの絶景や、焼岳を熱源とする良質なかけ流し温泉など、
登山客だけでなく、日常を忘れて寛げる温泉地として多くの人が訪れる観光地です

今回は、中尾温泉の温泉を活用した未来に向けた取り組み。
「奥飛騨温泉郷 中尾地熱発電所」をご紹介します。

焼岳

日本百名山の一つとして知られる、活火山の焼岳。
その麓に位置する中尾源泉は、高温・高圧の地熱を利用した自噴泉で、温泉浴用としての利用はもちろん、冬期の融雪などにも使用され、自然の恵みが無駄なく活用されています。

さらに焼岳を熱源とする、新穂高温泉・中尾地区の豊富な地熱資源を利用した地熱発電』への取り組みが行われており、昨年12月1日に商業運転が開始となりました。

地熱資源、世界第3位のポテンシャルを持つ日本

火山帯に位置する日本は、地熱資源量がアメリカ、インドネシアに次いで世界で第3位(2,347万kW相当)と豊富な資源量を誇ります。
しかしながら、国内で稼働中の地熱発電所の総出力は52万kWと、地熱資源量のわずか2.2%にとどまり、世界第10位となっています。日本の現状は、せっかくの資源を十分に生かし切れていないのです。

豊富な資源量を誇りながら、なぜ地熱開発が進まないのか?その理由として以下の3つが挙げられます。

  1. 日本特有の温泉文化と、地熱発電との共存・共栄が不可欠であること。
  2. 地熱発電に適した土地の大半が、国立・国定公園に立地するため、自然公園法の規制対象となる。
  3. 採掘に伴う開発リスクの高さ。

地熱発電が完成するまでには、地元合意から始まり、調査→各種許認可→採掘と進むため、地元の温泉事業者の同意が大前提。なのですが───湯量の減少などを懸念し、近隣の温泉事業者が開発に反対する事例も多いのだとか。
また地熱構造は複雑で、地上からどれだけ調査しても、実際に採掘しないと分からないことがたくさんあり、開発にはリスクがつきものとなっています。

中尾地熱発電所では、地元との共存・共栄の文化を築くため、発電所で使用しない熱水を中尾温泉へ供給する仕組みが考えられました。それにより、中尾温泉が保有する既存の温泉井戸を休ませることができ、中尾温泉の維持管理費が低減されるというメリットがうまれます

今後世界3位の地熱資源を活かしながら、中尾地熱発電所は『温泉地との共存』のモデルケースとしての期待も高まります。

ずっと使える地熱発電。その仕組み

△蒸気を噴出する「第一生産井」
(奥に見えるのが飛騨山脈)

地熱発電は、地下にあるマグマの熱エネルギーを利用して発電します。
地上で降った雨は、地下の高温マグマ層まで浸透すると、マグマの熱で蒸気になり地下1000m〜3000m付近に溜まります。
一般的にはこの層を「地熱貯留層」と呼んでおり、そこに抗井(こうせい)と呼ばれる井戸(生産井)を掘ることで、地熱流体を地上に取り出します。この地熱流体でタービンを回して発電するのが、地熱発電の一般的な仕組みです。

地熱発電は、天候を問わず24時間発電することができ、同じ「再生可能エネルギー」の太陽光発電や風力発電と比べ、設備容量に対する発電電力量が多く、設備利用率が高い安定電源です。
また、火力発電に必要な石油や石炭などと違い、なくなることがない資源のため、『ずっと使える』ことが特徴としてあげられます。

中部地区初のダブル・フラッシュ方式

地熱発電には、噴出した熱水で熱媒体を温めて蒸気を発生させる「バイナリー発電」と、噴出した蒸気と熱水を分離して蒸気でタービンを回す「フラッシュ発電方式」があります。

中尾地熱発電所では、地下から噴出する「高圧蒸気」と同時噴出する熱水を減圧沸騰させた「低圧蒸気」の2種類を蒸気タービンに導いて発電する『ダブル・フラッシュ方式』が採用されており、仕事を終えた温水の一部は、冬場の融雪に活用するなど、自然の「熱の力」を無駄にしない工夫が凝らされています。

ダブル・フラッシュ発電方式の仕組み

昨年12月1日に商業運転が開始となった「中尾地熱発電所」ですが、第一生産井の掘削が始まったのは、約10年前の2013年11月。これまでの道のりは順調ではありませんでした。
第一生産井の掘削完了後に確認できた蒸気量は、目標としていた熱量には遠く及ばない数値だったのです。

ここが地熱発電の難しいところの一つ。
事前にどんなに調査を実施しても、実際に掘ってみないと分からないことが多いのです。

その後、地元合意を再び得て、深度1,500mに及ぶ第二生産井の掘削が開始されましたが、蒸気はわずか1週間で停止。

原因は、「低透水性」と呼ばれる地下水を通しにくい地層でした。

実は、元々あった中尾温泉の井戸(深度400m)付近であれば、発電可能な熱量が得られることが分かっていました。ではなぜ第二生産井を深度1,500mにしたのか?
それは、『温泉地との共存』を掲げる中尾地熱発電所だからこその考え。
中尾温泉に影響を与えてしまう可能性があるため「あえて」差が付けられていたのです。

しかしこのままでは発電はままなりません。
事業撤退の危機が迫る中、思わぬ提案をしてくれたのは、他でもない地元の中尾温泉の方でした。

───「地下400mの地層からくみ上げてもかまわないよ」───

中尾温泉に影響があるかもしれない深度からのくみ上げを提案してくれたのです。
地元との共存・共栄のため、現地作業から地元の方々とのコミュニケーションなど、これまでの苦労が報われた瞬間でした。

深度を変えることで工事は急速に進み、開発に10年かけてきた中尾地熱発電所は、昨年12月、待望の商業運転が開始となりました。
年間約4,000世帯分の電力の発電が計画されています。
今後も、温泉と発電が組み合わせることでうまれるメリットと、純国産エネルギーを利用することで、日本のエネルギー自給率の向上に注目が集まります。

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