傾いて隆起した槍ヶ岳
「あ!槍だ!」飛騨山脈に登った登山者が真っ先に目印にする山が槍ヶ岳です。槍のように天を突く姿は,目につきます。標高は3180m。岳人なら一度は頂上に立ちたいと思う山です。
その北側に連なる北鎌尾根は,新田次郎の小説「孤高の人」の舞台の1つです。小説は昭和初期の登山家,加藤文太郎がモデルとなっています。その頃の登山は猟師などをガイドとした高級なスポーツであり,単独行で地下足袋姿の文太郎は異色の登山家でした。文太郎は,飛騨山脈での冬期登頂を単独行で次々と成功させ,一躍有名となりました。
北鎌尾根・東鎌尾根・そして穂高連峰につながる4つの尾根の接点が槍ヶ岳です。尾根と尾根の間の谷は深く切れ込んでいます。槍ヶ岳は周囲を氷河等に削られ残った部分という一面はありますが,その形のできかたは単純ではないようです。
たとえば,この写真は,南側の大喰岳(おおばみだけ)からみた槍ヶ岳です。山頂部が東側に傾いて,お辞儀しているように見えます。なぜ傾いているのでしょうか。
当推進協議会顧問である信州大学原山智名誉教授によると,傾きの原因は飛騨山脈を南北に走る断層を境に,信州側の大地が飛騨側の上に傾いて乗り上がったためです。
この大地を押す力は,日本列島に広範囲に加わっています。太平洋プレートは年平均8cmの速さで東から西へ移動し,日本海溝に沈み込みます。そして,同時に日本列島を押しています。あの東日本大震災の地震活動もこの力に起因しています。
(飛騨地学研究会 中田裕一)
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