笠ヶ岳の雪形と氷河地形
「笠ヶ岳の馬が出たで忙しくなるぞ。」風薫る5月、春祭りも終わると、高山盆地や上宝、神岡の谷筋の村々では笠ヶ岳の白馬の雪形を農作業の目安としてきました。白馬は笠ヶ岳山頂のすぐ下に見えます。2本の耳を持ち、正面からこちらを向いており、背中や尻は左に、季節が進むと背中の下に足が見えてきます。
高い山に遅くまで雪が残る理由は、積雪と低温のためです。その残雪は梅雨に入ると消え、里からは見えなくなります。ところが今から1万年以上前、氷河時代と呼ばれた時代、笠ヶ岳を始め飛騨山脈では残雪どころか1年中氷河をいただく時代がありました。
氷河は残雪と同じく谷筋に出来ますが、残雪と違う点があります。氷河は、上流から下流側へ年間数mから数十mという速さで流れるのです。
飛騨山脈に氷河があった証拠は、氷河地形で分かります。特に、笠ヶ岳の南東斜面のカール地形は有名です。氷河は流れる時に斜面を削るため、スプーンでえぐったようにおわん状の地形が出来ています。
笠ヶ岳のカールは、新穂高ロープウェイ西穂高口駅から見えます。山頂のすぐ下に播隆平カール、右側の稜線下に杓子平カールがあり、カールの底は平らなので、夏は高山植物が咲き誇る別天地です。
笠ヶ岳登山の時、つづら折りの笠新道を登りきると、いきなり杓子平と笠ヶ岳が現れました。歓声を上げたことを思い出します。日本の代表的な山岳景観のひとつです。
(飛騨地学研究会 中田裕一)
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